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プロフェショナル 仕事の流儀 [グラフィックデザイナー廣村正彰]
2016年11月7日放送 の内容を文章化しております。
ぜひ、我々の想いやエピソードに触れていただければ幸いです。

寺の行く末

住職「仏教の学びをどこでも、誰でもですね、学べるような公開の場所にしたい。」

ナレーション「400年の歴史ある寺、その行く末に危機感を抱く住職、
サインの力で新しい寺に生まれ変わらせてほしい。」

廣村氏「どうしたらいいんだろう。」

ナレーション「難航するプロジェクト。」

廣村氏「そうしよう。」

ナレーション「ヒントは以外なところにあった。」

(廣村氏仕事場)

廣村氏「證大寺、あの、霊園の、計画なんですよね。」

ナレーション「8月初旬」

廣村氏「これだけこう、墓地があるんですよ。ガーッとけっこうある。2000基くらい
あるのかな。」

ナレーション「宗教施設でのサインは廣村にとっても初めての試み。さらに大きな課題があった。」

廣村氏「まっすぐなんで、ちょうどこう、終わる手前に手紙処を作ろうかと。その間に、ちょっとしてみようかと、、、」

ナレーション「寺が新しく作る手紙処。訪れた人々が亡くなった人への手紙を綴り、納めるための施設になるという。ここを中心にサインの力で参拝客が集う霊園にしてほしい。それが廣村への依頼だった。」

廣村氏「こんにちは。よろしくお願いします。」(廣村氏登場)
職員「ありがとうございます。」

ナレーション「二日後打ち合わせが行われた。集まったのは寺の住職、建築家、PR担当者、そして廣村達のチームだ。」

住職「よし、コンセプトとしては短く言いますと、『新しいお寺』だと思っています。」

ナレーション「住職の井上城治さん、43歳。400年続く寺の20代目だ。」

廣村「手紙寺で、手紙処もあるということですね。」

なぜ寺で手紙を書かせるのか?

 

住職「目的としては、あの、つまり手紙を書くことを通して、いやでも自分と向き合うことができるので。『自分に向き合いましょう』って言っても、私自身なかなか人に言われたくないし、もう無理なので。でも亡くなった人に手紙を書くってことをすると、結果自分に向き合わざるを得ないし、亡くなった人を通して、励まされて、自分が自分を見るんじゃないやり方で見れるので、それが実は僕は仏教を聞くってことと、やってることは同じだと思っているんですね。」

ナレーション「誰かに向けて思いを書くことが、自分と向き合うことになる。
その役割を寺として担いたいという。」

住職「そういうふうに、自分に帰れる場所がほしいんですね。」
廣村氏「手紙寺って、ここがなったら、『手紙』っていう言葉が持ってる、こう、力が少しありますよね。雰囲気とか。それはいいかもしれない。」

(寺 お朝事)

ナレーション「井上住職が手紙処という大胆な案に踏み切ったのには、ある危機感があった。人口減少に伴い、今後檀家は減り続けるはず。年々参拝客も減る中、このままいけば400年続いた寺の存続も危ぶまれる。そこで他の寺との差別化を狙った「手紙処」というアイデア。歴史ある寺の20代目として、プレッシャーの中での決断だった。」

(船橋昭和浄苑)

 

 

 

住職「お寺がしっかりと霊園を維持管理する上で、『どうしたらいいだろうか?』っていう
悩みだけがいっぱいあって、それに対する考えはいろいろあるんですけど、
もう訳わかんなくなったんですね。

お寺っていうのは、お別れをしていく場所です
から、まあ、そこに来て、あの向き合うってことができるだろうと思ってるので、
それが僕はお寺の本来のお参りのあり方と、あの、つながってるっていう風に、
あの、強く思ってます。」

(廣村氏仕事場)

廣村氏「どうしようかな?」

ナレーション「廣村は考え続けていた。手紙寺というイメージを定着させるためにも、ここへ来たら手紙が書きたくなる、そんな仕掛けが必要だ。」

廣村氏「いくつか、その、手紙処にたどり着くための、『句碑』を、えっと、置こうかと。」

ナレーション「思いついたのは方向や距離を示すサインではなく、文章を載せた道しるべ。
著名人が残した様々な作品を手紙処に続く参道に並べる。」

廣村氏「その、こう、道行きにそういうものを建てることで、なんかその、こう気持ちが盛り上がっていく感じがいいなと思ったんですけども。わざわざそこまで来て、書いてもらうって、ある意味ハードル高いので、あのそれがひとつの、、、こう、なんだろうなー。他人を思う気持ちのモチベーションになるといいかな。」

(廣村氏 部下に指示)
廣村氏「ちょっともう一回」

ナレーション「しかし、何かがしっくりこない。」

8月19日(森林公園昭和浄苑)

ナレーション「2週間後廣村がプレゼンを行う。」

廣村氏「途中の、あのー句碑の例なんですけども、僕らは句碑っていう風に軽く考えていたんですけども、句碑ではなくてやっぱり、手紙の例だと思ったんですね。そうすると手紙って長いじゃないですか?」

ナレーション「廣村は道しるべの内容を著名人たちの作品ではなく、誰かに宛てて書いた手紙そのものに変えていた。」

廣村氏「なんか句だと情緒があるんですけど、手紙って割とリアルじゃないですか。ま、何気ない言葉なんですけども、その気持ちがちょっと表れてるとジーンとくるなと思ったんですね。」

ナレーション「身近な人に宛てた実際の手紙こそが、ストレートに心に訴えられるのではないか?」

廣村氏「何気ない言葉なんですけども、じゃ、尾川さんに読んでもらいましょうか?読み上手な。」

(山田太一から寺山修二への手紙)
「昨日朝、久しぶりで明治神宮へ行った。夏の間踏まれることが少なかった芝生は豊富で座りよかった。転がっても枯れ草がつかない。君と来て枯れ草を払いあったのは、あれは冬だと思い出して、懐かしかった。入院したころより悪いのでは。面会はできるだけ少なくする。その代わり会いたいときは手紙を書こう。もし書けるなら、君もたまにはくれたまえ」

ナレーション「井上住職は深く聞き入っていた。」

住職「あー。うーん。」
廣村氏「まあ、友人への手紙なんで、ちょっとこう、ある意味ちょっと突き放して、あっさりしてるんですけども、愛情がすごい深いなと思ったんですね。」
(住職うなずく)
住職「うん。いやー、いいですね。手紙。こういう手紙を読んで、書きたくなるなと思うと思うんですね。いや、本当にこれ、あの、これに導かれていくってのは、お寺としてはいいと思います。」

職員「ありがとうございました。」

ナレーション「プレゼンは好評だった。しかしまだしっくりこない。著名人の手紙だけで手紙を書こうという気分になるものか。その確信がない。」

廣村氏「まだこれ、ちょっと完成してないなと。」

(廣村氏仕事場)

廣村氏「僕らそれを、サインをつけることとかが目的ではなくて、やっぱり、その依頼人の人が最終的に満足をどこに落ちつかせるかが、すごい重要なんでね。それを考えていかないと、物はできたけど、結局は継続できないっていうのが、一番つらいかな。とは思ってるんですけど。」

そもそも手紙とは何か?

廣村氏「手紙の本質、、、そういうものをこう、読むことで、一般の人々もじわっときて、自分も書いてみたいと思わせるのがやっぱり、こう、一番の目的というか。」

ナレーション「手紙のありがたみ。それをどうサインと結びつけるか。」

廣村氏「特別なものとして、そこが捉えられるといいなと。まあ、たまたま来た人にもね、そこを移動するにしても、そこに立ち止まるにしても時間があるじゃないですか?そこで過ごす時間。ちょっとした時間だとしても何かまあ、あの、特別な時間にしたいなと思うんですよね。」

ナレーション「プロジェクトは佳境を迎えつつあった。」

(会議場所)

(住職登場)
住職「おはようございます。どうもありがとうございます。」

ナレーション「だが、決め手に欠けていた。
この日、廣村は前もって住職に頼んでいたことがあった。」

廣村氏「それだったら、以前ちょっと井上さんにもお伺いしてね、お父さんからの手紙っていう話をお伺いしてたじゃないですか。あれをえっと、どっか切り取ってちょっとそう、いっぺん入れてもいいかな、と思ったんですよ。」
住職「ああ、そうですか。」

住職が大切にしている” 亡き父親の覚書 ”

住職「最後に僕に対しての言葉が一個だけあったので、で、それで僕は人生決まった感じなんですけど。ここに『後継に告ぐ。證大寺の念仏の灯火を絶やすな』って言葉があって、僕これ見たときにもう涙が止まんなくなっちゃってですね、『長男 城治 九歳へ』って書いてあるんですけど、こういうことを言う人じゃなかったので、僕びっくりしてしまって、寺の方向をガラッと変えて今の寺になっていった礎なんです。これぐらいしか、ないです。」
廣村氏「なんかね、そうせっかく手紙っていうものがひとつのキーワードというか中心にあるので、手紙を介したその、寺のあり方みたいなことをどうこう、何か伝えられるかなみたいな」

ナレーション「廣村は住職自身が受け取った手紙も道しるべのひとつに加えてはどうかと投げかけた。」

廣村氏「だから手紙処、あるいは手紙寺って言われるんだみたいな。基本はやっぱり、住職が体言しないと、何かね、うん、借りてきたみたいなことになるよりは、自ら率先してそういうことの活動してるっていう方が、いいなあと思ったんですよ。」
廣村事務所スタッフ「なんか説得力あるよね。」
廣村氏「え、なんで」
廣村事務所スタッフ「ずいぶん違って聞こえるな。」
廣村氏「でもそうだといいですよね。」

ナレーション「ふと住職が語り始めた。」

住職「結局手紙を僕も師匠からもらってきたんですけど、もう恐ろしくて、見るのが。つらいなあと思って。で、ノートもいっぱいあるんですけど、見るともう切られるような思いになるんです。でも、そういうのだったら・・・」

ナレーション「修行時代、お世話になった師匠からの手紙があるという。」

廣村氏「その身の切られるような、話の一節を読んでみたいと。」
住職「ああ、、、はい。もう来なくていいですとか、自重してくださいとか。」
廣村氏「ああそうですか。厳しいですか?」
住職「厳しいですね。」

ナレーション「井上住職の苦い思い出。」

廣村氏「あの、ちょっといっぺんそれって、見さしてもらえるんですか?公開するかどうかは別として。」
住職「ああ、はい。」

心の根っこ

住職「でも見てもらえるのはいいと思います。冗談ぬきで、それは見てもらえるとお寺の、その手紙寺の方向に、あの、なるような気がします。なので、あの、私個人のものとはいえないようなものだと思うので、はい。」
廣村氏「そこに根っこがあるんじゃないですか?」
住職「はい。」

廣村氏「その辺もちょっと掘り下げながら。全体をもう少し、まあもう一回、えっと俯瞰して見直してみて、スケジュールとか予算とか、まあ全体の把握ですよね。そうしながら進めたいと思います。そうしましょう、はい。」

(道路上)

住職「あの、廣村先生を通して、社会の窓口というか、あの、まあそういうところを改めて今日感じまして、あのしっかりまた話し合っていきたいなと思います。はい。ありがたいですね。ありがとうございました。」

師匠が伝えたかった思い

ナレーション「一週間後、住職が持ってきたのは、4通の師匠からの手紙。」

住職「一事が万事。こういう、わたし怒られてばかりなんですけれども。ええと『貴殿の意地っ張りにはつくづく参っております。道を学ぶものの態度がいかにあるか、反観自省をなさることを念じます。男らしく正々堂々と生きられたらよいと思います。こんな手紙は書きたくないですが、返事をするのは、あなたを無視していないという証です。よく顔を洗いなおすことです。』こういうのホントに、今見るとあったかい手紙なんですけど。」

ナレーション「今読み返せば、愛情の言葉であふれていた。この感触を廣村はサインとして、仕上げる。」

プロフェッショナルとは

廣村氏「新しい体験が作れる人。面白さだとか、そういうのがすごく込められて、その、人々のみんなの思い出の中にこう、ちゃんと出てくるような、デザインができる人がプロフェッショナルかな。」

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